東京高等裁判所 昭和31年(う)2816号 判決
被告人 渋谷正美
〔抄 録〕
弁護人の論旨について。
所論は被告人が性格異常者で心神耗弱の状況にあつたと主張する。しかし人の精神状態は必ずしも精神病医師の鑑定をまたなければ判断し得ないものではない。被告人の犯行の態様自体から又はその動機目的から精神状態が判断できることもあるし、被告人の言語、挙動その他諸般の事情からこれを推論することが不可能ではない。ところで被告人の本件犯行たるや回数が多いし、その中の放火の犯行は原判決が認めたものだけでも三回あるが、その他になお被告人は一夜の中に連続して干物、カンナ屑、藁など手当り次第に火をつけている事実が認められ、かつ右事実について所論が引用しているような供述をしていることが記録上認められないわけではない。しかし被告人の実母渋谷ハツノの供述兄渋谷和之の供述調書によると被告人の学業成績は中位であつたが性格的にいくらか粗暴な点があつたと認められるし、小学校卒業後三回も少年院に送致された経歴を有する被告人としては所論に引用されているような動機から連続的に多数の犯行をくり返している事実も異常性格による衝動的犯行と認めなければならないものではなく、母ハツノは被告人をもつて無断家出をする変つた性格であるという外格別異状な点があることを供述していないことからも右見解が正当なものであることを裏付けることができるのである。その他原審が直接被告人に質問しその応答や挙動等を観察し心神耗弱者でないことを認めたが故に、特に鑑定等の手続を為さずして原判決を宣告したというべく、記録を精査しても被告人が心神耗弱者であつて、原判決に事実の誤認があることを疑わしめる点がないから論旨は理由がない。
(加納 吉田作 山岸)